乳歯を再生医療に活用 名大「幹細胞バンク」設立

2007年12月6日  中日夕刊

名古屋大は6日、子どもの乳歯からさまざまな細胞に分化する幹細胞を取り出し細胞治療や再生医療に生かす研究を目的とした「乳歯幹細胞研究バンク」を同大医学系研究科内に設立した。乳歯は採集が容易で、幹細胞としては細胞密度が高く増殖能力が高いことから、白血病治療の骨髄、臍帯(さいたい)血バンクに代わる新たな細胞バンクとして期待される。同大医学系研究科の上田実教授は「将来的には孫の乳歯でおじいさんの骨折が治せる時代が来る」と話している。

 上田教授らは2003年、人の永久歯から歯の神経組織である「歯髄」を採取し、その中からさまざまな器官に成長する能力を持つ幹細胞を取り出すことに成功。その後の研究により、乳歯が永久歯よりも幹細胞が増殖しやすいことが分かった。

 幹細胞は骨髄や臍帯血にもあるが、乳歯の幹細胞の方が、細胞密度が高く、骨や軟骨以外に神経、血管などに分化する可能性を持つ。さらに上田教授らは最近、イヌから採取した乳歯幹細胞を親イヌに移植したところ、歯槽骨を再生することに成功、乳歯幹細胞から培養した骨が同種の動物で世代間を超えた移植が可能であることを確認した。

 乳歯幹細胞研究バンクでは、一般歯科医院や歯学部付属病院から提供を受けた乳歯の歯髄から幹細胞を分離し、超低温で保存。細胞治療や再生医療に役立つ基礎研究を行う。抜けた乳歯は牛乳につけて冷蔵保存し、48時間以内にバンクに持ち込めば細胞が死滅することなく使用できるという。

 白血病治療では骨髄や臍帯血の幹細胞の利用が知られているが、これらの採集は提供者の負担も大きく十分な量が集まっていないのが現状。また、万能の再生治療が期待されるES細胞(胚=はい=性幹細胞)技術も倫理上の問題がある。抜けた乳歯なら提供者の負担もない。近い将来には子どもの乳歯幹細胞を利用した親の骨粗しょう症、骨折など骨疾患への利用が可能。将来的には親以外の近親者への治療のほか、ひざやあご関節などの軟骨疾患、脳梗塞(こうそく)などの難治性の神経疾患、ケロイドや傷あとなどの皮膚疾患などの治療への応用可能性がある。

歯の定期検診、過半数が「受けたことがない」

2006年07月04日 15時59分

マイボイスコムは7月4日、歯の健康に関する調査結果を発表した。それによると、歯科の定期検診を受けている人は3割に満たず、受診しない人の割合が依然多いという。

定期検診を受けている人の内訳は、「3カ月に1回以上」が4.5%、「半年に1回」が9.0%、「1年に1回程度」が14.8%だった。また「以前は定期的に受けていたが、今は受けていない」人が18.2%で、「定期検診は受けたことがない」人が53.6%と過半数にのぼった。

歯の健康で気になることは、「歯垢・歯石」が最多で44.8%。次いで「色素の沈着・歯の色」(34.4%)、「歯周病など歯ぐきに関するトラブル」(32.7%)、「歯並び・噛み合せが悪い」(32.6%)などが僅差で続いた。「『虫歯がある』(26.7%)という悩みよりも、日常のケアや見た目、歯ぐきのトラブルなどの関心が高いことが分かった」(同社)

現在最も気になることを尋ねると、「虫歯がある」(15.0%)、「歯並び・噛み合せが悪い」(14.8%)、「歯周病など歯ぐきに関するトラブル」(14.0%)がトップ3で拮抗している。しかし、気になることがありながら「何もしていない」人が最も多く、45.8%に達した。

歯磨きアイテムを選択する際の重視点を尋ねると、歯ブラシ・歯間ブラシ類は「ヘッドが小さい」が43.5%で圧倒的に多かった。また、歯磨き粉を選択する際の重視点では、「虫歯予防効果」「口臭予防効果」「歯垢除去効果」など、各種効果を求める回答が上位5項目を占め、「価格」は7番目となった。

調査は2006年6月1〜5日まで、1万3741人を対象にオンラインでアンケートを実施したもの。

(2006年7月4日  日経BP)

『歯科医としてはこれはちょっと寂しいニュースです。。。 このHPをごらんのみなさんはぜひ定期検診を!』(いやま歯科)


本文です
「歯の多い高齢者は健康」医療費が月9000円少なく

 自分の歯が20本以上残っている70歳以上のお年寄りは、4本以下と比べ、身体の病気で費やす医療費が1か月、平均約9000円も少ないことが、兵庫県国民健康保険団体連合会などの調査で分かった。

 残存歯数が多いほど、神経や循環器などの病気で通院する日数が少なく、歯と身体の健康の密接なかかわりが明らかになった。

 この調査は、同連合会が保有する同県内全域の医科と歯科のレセプト(診療報酬明細書)をもとに実施。昨年5月に歯科治療を受けた70歳以上の男女約3万2600人を対象に、同じ月の歯科以外の医療機関への通院日数や医療費を算出した。

 その結果、残存歯数が4本以下の人は、歯科以外の医療費が平均2万6500円だったのに対し、20本以上の人は1万7800円で、歯が多いほど医療費が少ない傾向が見られた。

 病気別の平均通院日数では、神経系の病気(パーキンソン病、アルツハイマー病など)では、残存歯数20本以上の人が2・17日なのに対し、19本以下の人は3・56日と1・6倍。循環器疾患(高血圧、心疾患、脳こうそくなど)でも20本以上が2・46日に対し、19本以下は2・82日と、残った歯が多い人ほど、通院日数が少なく、健康状態の良好さをうかがわせた。

 近年、歯周病など歯の病気を招く細菌が、糖尿病や心筋こうそくなどの一因になるという研究も報告されている。調査に協力した日本歯科医師会の登利(とり)俊彦常務理事は「適切な口腔(こうくう)ケアを進めれば、医療費の削減につながる可能性がある」と話している。

(2005年10月4日14時39分  読売新聞)


ライオン、フッ素の虫歯予防効果を高める新成分を発見
歯表面での滞留量が増え、再石灰化もアップ

ライオンオーラル研究所は、歯の表面でフッ素が虫歯予防効果をより発揮するための新材料を開発した。

高分子の「カチオン化セルロース」という成分で、フッ素入りの歯磨き剤に加えると、フッ素が歯の表面に吸着しやすくなり、歯の再石灰化をより促進することを発見した。

 日本で売られている歯磨き剤のほとんどには、虫歯予防の目的でフッ素が含まれている。歯は常に、内部からミネラルが溶け出す「脱灰」と、そのミネラルを再び歯に取り込んで修復する「再石灰化」を繰り返している。脱灰が上回ると虫歯になり、逆に再石灰化が上回ると歯がより強くなる。
 
 フッ素は「再石灰化」を促進して、歯を強くする。虫歯予防の効果を高めるには、このフッ素が歯磨きの後、どれだけ歯の表面に残っているかが重要になる。各メーカーは、フッ素の効果をより高める方法を研究している。
 
 フッ素は口の中ではフッ化イオンとなり、マイナスに荷電している。歯の表面もマイナスだ。同研究所では、「カチオン化セルロース」はプラスに荷電した高分子であることに着目、これがあると歯の表面をコーティングし、フッ素を呼び寄せるのではないかとの仮説を立てて、研究を進めた。
 
 実際に「カチオン化セルロース 環状4級アンモニウム型(以下、環状型)」という成分をフッ素入り歯磨き剤に配合し、人間の口腔内に装着した人工歯を使って試験をしたところ、フッ素の歯面への滞留量が約1.6倍向上することを確認した。
 
 また、人間の歯に人工的に初期虫歯(歯の内部からミネラルが溶け出しているが、まだ孔はあいていない、虫歯の手前の状態)を作り、この成分を配合した歯磨き剤で1日2回、1週間磨いたところ、配合しない場合と比べ、初期虫歯の修復効果が約30%向上した。

 ただし、「カチオン化セルロースがどのように働いて、フッ素の歯の表面の滞留量を増やすかについては、まだ研究中」(ライオン広報室)という。この研究成果は、10月の第54回日本口腔衛生学会総会(東京)で発表する予定という。
 
 カチオン化セルロースは、紙の主成分であるセルロースに複数のカチオン基を結合させた高分子成分。毛髪表面をコーティングして、きしみを防止する成分として、シャンプーやヘアケア剤などに利用されている。
 
 ちなみに、花王は2種類のフッ素化合物を配合し、使用時に混じり合うようにすることで歯の表面へのフッ素の吸着力を高めることを確認、既に製品化している。この技術を用いると、2剤が混じり合い、一剤型ではできないナノ微粒子のフッ化カルシウムが生成されるため、歯の表面へのつきが良くなり、初期虫歯の修復効果がアップするという。
(日経BP社 2005年 9月1日)



歯周病菌が血管の病気の原因に
バージャー病と関連

2005年07月01日09時57分

 手や足の血管が詰まる難病、バージャー病が歯周病菌と関連していることを東京医科歯科大の岩井武尚教授(血管外科)や石川烈教授(歯周病学)らが突き止めた。予防や悪化防止にもつながる成果という。米国の血管外科専門誌の7月号に発表する。

 バージャー病の患者は国内に約1万人いるとみられる。手や足の動脈に炎症が起きて血流が悪くなり、ひどい場合は足の切断に至ることもある。

 岩井教授らは患者の同意を得た上で、病気になった動脈で歯周病菌に特有のDNAの有無を調べた。歯周病菌にはさまざまな種類があるが、今回は代表的な7種類で検査、患者14人中13人で歯周病菌が見つかった。また、14人全員が歯周病になっていた。バージャー病でない7人の動脈からは歯周病菌は見つからなかった。ネズミを使った実験では、歯周病菌が血管内に血のかたまりを作ることが分かった。

 これらの結果から岩井教授らは、口の歯周病菌が血管の中に入り、バージャー病の発症や悪化に関係するとみている。バージャー病は喫煙者に多く、喫煙は歯周病を悪化させる。歯周病を抑えることや禁煙が、この病気の予防や悪化防止につながるという。

 (asahi.com 2005年 07月01日)

歯周病:失われた組織 塗り薬で再生 

                         大阪大大学院教授ら

 歯周病で失われた骨の組織を塗り薬で再生させる治療法の開発に、大阪大大学院歯学研究科の村上伸也教授らの研究グループが成功した。これまでは、病気の進行を食い止める治療法しかなく、重症の場合には抜歯していたが、組織の再生により歯を保存できる可能性が高まった。臨床試験では、重篤な副作用はなく、順調に進めば数年後には治療薬として利用できるようになる見通し。

 歯周病は、歯を支えるあごの骨「歯槽(そう)骨」が口の中の細菌によって破壊され、やがて歯が脱落する生活習慣病。35歳以上の80%がかかっているといわれる。歯周病で破壊された歯槽骨は元に戻らないとされ、重症の場合は、歯を抜くしか治療法がなかった。

 村上教授らは、「科研製薬」(東京都)と共同で、細胞を増やす働きがある特定のたんぱく質を用いた薬を開発。細胞を使った実験では、歯槽骨の元になる幹細胞から、歯を支える歯槽骨、歯の表面のセメント質、それらをつなぐ歯根膜の細胞が同時に増殖することを確認した。動物実験でも、歯周病で失われた組織の再生に成功した。【山崎明子】

毎日新聞 2005年1月16日 3時00分


歯垢が肺炎を引き起こす

【ワシントン=笹沢教一】歯垢(しこう)の中に潜む細菌の中に呼吸器疾患や院内感染に関係する種類が含まれ、高齢者などに重い肺炎を引き起こすケースが起きている実態が、米バファロー大歯学部の研究で30日明らかになった。

 ◆黄色ブドウ球菌など 院内で感染か

 歯垢と呼吸器疾患との因果関係を証明した初の成果。高齢者介護における歯科衛生などの面からも注目されている。米国の胸部疾患専門誌の最新号に発表された。

 研究チームはニューヨーク州の高齢者向け長期療養施設の患者49人について歯垢を分析した。28人から肺炎を引き起こす黄色ブドウ球菌やグラム陰性菌、緑のう菌を検出した。うち14人が肺炎を起こし、DNA分析で少なくとも8人の歯垢と肺に潜む細菌が一致した。

 これらの細菌は院内で感染した疑いがある。いずれの種類も、抗生物質の耐性を獲得して院内感染を引き起こす危険性を持っているため、研究チームは「高齢者を扱う施設では歯と入れ歯の双方の清潔を保つ必要がある」としている。

 (2004年12月2日 読売新聞 )



最新の虫歯治療は「痛まず・削らず・一度だけ」


 「痛くない」「削らない」「麻酔が要らない」「1回の治療で済む」…。歯医者さんが苦手の人にとって、まるで夢のような虫歯の治療法が最近注目を集めている。


 これは、病巣部の細菌を殺して無菌化し、組織の自然修復を促す治療法の一つで、「3Mix-MP法」と呼ばれる。3種類の抗菌薬を粉末にして、MPという基剤と混ぜてペースト状にし、それを虫歯の穴に置いて、上からセメントなどで密封する。すると、基剤から抗菌薬が少しずつ放出されて歯の隅々にまで浸透していき、歯全体を無菌化する仕組みだ。




 この病巣の無菌化により、生体の自然治癒力が発揮され、病巣の組織は数日から1カ月ほどで修復されてくるという。3Mix-MP法の開発者の一人であるタクシゲ歯科医院(仙台市泉区)院長の宅重豊彦氏によれば、レントゲンでは最初は黒く写っていた虫歯の病巣も、カルシウムが沈着してくるため、だんだん白くなってくるそうだ。この結果、数カ月程度で、軟らかい病巣をまた硬い歯質に戻すことができる。



歯を「できる限り残す」がコンセプト



 3Mix-MP法が、従来の虫歯治療の常識と大きく異なる点は、病巣を取り除くのではなく、できる限り残すことにある。つまり、「さわらない」「いじらない」がこの治療法のコンセプトだ。病巣をほとんど削らないので、治療に伴う痛みはなく、麻酔する必要もない。



 宅重氏によれば、歯の構造は“木の葉”をイメージするとわかりやすい。「細管」というチューブが寄せ集まって歯の形を作っているが、この葉脈のようなチューブの空洞の中に細菌が入り込むと、太い歯髄だけ治療していても、なかなか末端にいる菌まで殺すことは難しい。このため何回も通院して治療を受けたり、最終的に歯を抜く必要が出てきたりするという。



 3Mix-MP法で使う3種類の抗菌薬の組み合わせは、新潟大学大学院医歯学総合研究科教授の星野悦郎氏が見いだした。口腔内に生息するすべての菌に対し、最も効果の高い組み合わせだ。



 また、これらの薬自体は水分が苦手だが、薬と混ぜる基剤の働きにより、口腔内でもその効果を保ち続けることができる。3Mix-MP法では、1回の治療でまず100%無菌化できるため、何回も歯の根の治療に通ったり、神経や歯そのものを抜く必要が激減するという。



 治療の効果は永久歯でも乳歯でも同じだが、ほとんど痛みがなく、短時間で済むことから、てこずりやすい子供の虫歯治療に特にメリットは大きい。



 なお、使用する抗菌薬は保険薬だが、この治療法では内服薬を外用薬として使うため、保険の適応にはならない。医師の裁量権で使われているのが現状だが、3Mix-MP法での使用量は、1錠で100本分の歯を治療できるほど少ないという。したがって、治療費も、一般的な虫歯の治療とあまり変わらないそうだ。



 これまで神経を取るしかないとされていたような虫歯でも、3Mix-MP法では神経を残せる可能性がある。もし虫歯になってしまっても、諦めずに一度試してみてはいかがだろうか。



     
■当医院でも行っています。         (2004/09/22 日経BP社)



歯周病菌やっつける物質をライオンが発見

 薬剤が効きにくい歯周病菌に対し、優れた殺菌効果を示す物質をライオンのオーラルケア研究所が発見した。

 虫歯と並び、歯を失う原因の半分を占めるとされる歯周病の予防に生かせると期待される。

 歯の表面についたネバネバの「歯垢(しこう)」は、食べ物のかすをエサに繁殖した細菌の集団。集団化した細菌は、糖などで防護壁を作り、薬をはね返してしまう。

 ライオンは、この防護壁を突破できる物質の探索に乗り出し、ボディーソープなどに使われている化学物質「イソプロピルメチルフェノール」が、突破力も殺菌効果も極めて高いことを発見した。

 歯垢の除去は歯磨きが最も効果的だが、完全に磨くのは極めて難しく、40歳代の歯周病の保有率は8割に上るとされる。放置すると歯茎が炎症を起こし、悪化すると周囲の骨まで侵食、歯が抜けてしまう。

 同社は今後、この物質を入れた歯磨き剤の開発を進める。

 (2004/7/19/  読売新聞)
歯ぐきの健康(1)口と全身 歯周病は体の黄色信号

  

 岡山県の主婦、川上敏子さん(52)=仮名=が「血糖値が高め」と指摘されたのは20年以上前。特に苦痛はなかったので、放っていた。40代後半になって体のだるさに耐えられず、岡山大医学部付属病院を受診した。

 「歯の具合はどうですか」。内科医から聞かれて驚いた。奥歯がぐらついて硬い肉が食べられなくなっていた。紹介された同大学歯学部付属病院で診てもらうと、重度の歯周病だった。

 口の中にはびこる細菌を抗生物質で減らし、手の施しようがないほど傷んだ奥歯を10本抜いた。歯肉(歯ぐき)を切開し、残った歯の根元をきれいにする手術を受けた。

 治療が終わると、血糖の傾向を示す検査値が改善し、健常な人に近づいた。今は服薬で血糖をコントロールし、2〜3カ月に1度、歯周病の検診に通う。「歯の状態は良好で、気分もいい。もっと早く治療を受ければよかった」と振り返る。

*    *    *

 歯周病を治療することで、糖尿病の状態が改善する。そんな海外の研究が97年に発表された時、同病院で歯周病を担当する西村英紀・助教授は「まさか」と思った。でも、これまで同病院で十数人が川上さんと同様の経過をたどった。重い歯周病が糖尿病を悪化させていたと考えられている。

 西村さんによると、歯周病を起こす細菌が血液中に入ることがきっかけになり、インスリンの働きを阻む物質が体内で増える。逆に、糖尿病があると歯周病にかかりやすいことは以前から知られていた。「歯周病は全身の病気とも深くかかわっている」。そんな考えが徐々に広まってきた。

 九州大の斎藤俊行講師らは、95年から福岡市健康づくりセンターが実施する健康診断に参加して、希望する受診者を対象に歯の様子を診ている。症例が増えるうち、肥満な人ほど歯周病になりやすいことが分かった。

 脂肪がたくさんあると、その組織から血中にある種の信号物質が流れる。それが歯肉での血液の流れを滞らせたり、歯を支える骨を壊れやすくしたりするらしい。この仕組みは糖尿病とも共通している。

 「初期の歯周病は痛みが伴わず、自覚しにくい。糖尿病も同じ。気づかないうちに進行し、お互いの病気の進行を促進させていることがある」。斎藤さんらはそう考えている。

 歯周病が心臓病を起こしやすくするともいわれる。口の中の細菌がもとで、心臓に栄養を送る血管を詰まらせてしまうのだという。最近は「歯周病が直接心臓病に結びつく確実な根拠はない」という説も出ていて、関係はまだよく分かっていない。ただ、心臓の手術を受ける場合は事前に歯周病の有無を調べ、術中に口の細菌が感染しないようにすることが、ほぼ常識になっている。

*    *    *

 歯周病があると、体の炎症を示すCRPというたんぱく質の値が高まることも分かってきた。CRP値が高い状態が続く動脈硬化を招き、心筋梗塞(こうそく)のリスクを高めると言われている。

 糖尿病や肥満、高血圧といった生活習慣病は、複数の病気が同時に起こることで心臓病や脳卒中のリスクを加速させる。歯周病もそうした生活習慣病の一つと考える専門家は多い。

 「歯周病の治療は糖尿病や心臓病を治すのが目的ではない。でも、ほかの病気を改善できる可能性もある。全身の健康を保つという観点から、歯周病にもっと関心を寄せてほしい」と、大阪大歯学部の村上伸也教授は話す。

〈歯肉炎と歯周病〉

 主に、細菌がもとで歯肉に炎症が起こる歯肉炎と、炎症が広がって歯を支える歯槽骨が壊れる歯周炎に分かれる。軽いものまで含めると国民の7割以上にあり、中高年以降で歯が抜ける最大の原因とされる。
【朝日新聞 (2004/06/21)健康面より】

歯ぐきの健康(2)予防と初期医療 菌の除去が基本、継続を

歯科衛生士に、ブラシが届きにくい部分まで掃除してもらう=東京都渋谷区の西堀歯科で
歯科衛生士に、ブラシが届きにくい部分まで掃除してもらう=東京都渋谷区の西堀歯科で

 歯を磨くと血が出る。奥歯がぐらつく。東京都杉並区の主婦高橋彰子さん(68)=仮名=が、歯周病治療に力を入れる西堀歯科(東京都渋谷区)を訪ねたのは、今から6年前。症状に気付いてから1年たっていた。

 「口の中の掃除と消毒をし、歯の磨き方を指導しました。その後も約3カ月に1回、通ってもらっています」と、西堀雅一歯科医師。定期検診では、歯と歯肉(歯ぐき)の間にできた溝「歯周ポケット」を歯科衛生士が調べ、ブラッシングを指導、歯石などを除去している。

 高橋さんは「以前は2、3分だった歯磨きに、今は5分以上かける。かむにも不自由していたが、すっきりした」という。

 歯周ポケットに食べかすが残り、侵入した細菌が炎症を起こすのが歯周病。原因になる菌は10〜15種類あるといわれる。

 診察は、ポケットプローブと呼ばれる針のような器具を、歯周ポケットに軽く刺す。深く刺さるほど進行した歯周病だ。

 自覚症状はほとんどないが、口臭が強くなることが多い。歯を磨くとき、歯肉から出血しやすくなる。悪化すると、何もしないのに出血したり、歯がぐらついたりしてくる。すぐに歯科医に診てもらった方がいい。

*    *    *

 初期治療では、ポケットにたまった菌まみれの傷んだ血管や歯肉組織をかき出し、菌を取り除くことが第一だ。

 ポケットが浅く、歯肉の炎症も軽度なら、歯磨きでかなりの効果が期待できる。ただ、歯磨きだけで、菌を完全に取り除くのは難しい。そこで、歯科衛生士が歯科医師の指導の下、歯石やポケットにたまった菌を取り除く歯科医院が増えてきた。

 衛生士の小木曽(こぎそ)一恵さんは「継続して患者さんを見ることで、どこに問題があるか分かってくる」と話す。定期的に患者と接すれば、歯肉の変化を敏感に感じ取れる。再発しても、初期段階で食い止められる。西堀さんは「再発予防は、患者の意識をいかに保つかが大切。患者に歯磨きの必要性を伝え、信頼関係を築くのに衛生士が果たす役割は大きい」と説明する。

 広島高等歯科衛生士専門学校教務主任の小原啓子さんは「美容院に行く感覚で衛生士と付き合ってほしい」と訴える。

 初期治療で大半は良くなるが「ごく一部、なかなか治らない人がいる」と西堀さん。取り除きにくい菌に感染していると、抗生物質を使うことがある。外科治療が必要なこともある。合併症が疑われると、内科医受診を勧めるなどの助言もする。

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 ブラッシングの効能は、細菌を取り除くだけではない。歯肉を刺激して血の流れを良くすると、免疫力で原因菌をやっつけられるようになるといわれる。

 たばこと歯周病の関係を調べている吉江弘正・新潟大教授も、血流の重要性を指摘する。喫煙習慣のある大学生16人に禁煙してもらうと、歯肉の血流は3日で増え始め、5日後には歯肉からしみ出て菌の感染を防ぐ液の量も増えた。

 喫煙者の方が非喫煙者より歯周病になりやすく、禁煙した人は喫煙者より歯周病の再発が少ないといった別の研究結果と合わせ、「禁煙は血流を回復させ免疫機能を高めることで、歯周病を防いでいる可能性が高い」と吉江さんはみている。

 ただ、ある遺伝子の有無によって、喫煙者でも歯周病に特になりやすい人と、非喫煙者とほとんど変わらない人がいると分かってきた。吉江さんは「歯周病予防は当面、丁寧な歯磨き、定期的な歯科検診、適切な生活習慣の『三つのて』の心がけから。将来は、それに遺伝子診断が加わるだろう」と指摘している。

    ◇

 〈ながらブラッシング〉

 1日1回は15分以上歯を磨く習慣をつけてもらおうと、九州大学の口腔(こうくう)ケア・予防科が提唱している。鉛筆のように3本の指で歯ブラシを持ち、テレビを見たり、雑談したりしながら磨く。歯磨き粉は付けない。歯肉を傷つけないように、ブラシは強く当てない。唾液(だえき)は口にためず、飲む(無理はしなくていい)。奥歯は、口を開けすぎない方がブラシが届く。
【朝日新聞 (2004/06/28) 健康・生活面より】

歯周病が糖尿病引き起こす可能性 九州大が調査

 歯周病が糖尿病を引き起こす可能性のあることが、福岡県久山町の住民を対象にした九州大学の調査で分かり、国際歯科研究学会の雑誌6月号に掲載された。糖尿病患者が歯周病になりやすいことは知られていたが、歯周病が全身の病気に及ぼす影響が疫学調査によって明らかになってきた。

 調べたのは、九州大病院口腔(こうくう)ケア・予防科の斎藤俊行講師らで、血糖値に異常があり糖尿病と診断される一歩手前の「境界型」に注目。同病院が疫学調査を続けている久山町の住民のうち88年の健診で血糖値が正常だった406人について、98年の健診で血糖値の推移と口の健康状態を調べ、歯周病のある人が境界型になりやすいかどうかを分析した。

 98年に境界型と診断されたのは72人。血糖値の悪化にかかわるとされる肥満度や運動習慣といった要素が影響しないように計算すると、中程度の歯周病がある人はない人よりも2・1倍、重度の人だと3・1倍、境界型になりやすかった。

 歯周病は、主に細菌が歯と歯茎のすき間などにたまって起こり、放置すると歯を支える骨が溶けることもある。歯周病が続くと、細菌が血中に入り込み、血糖値を下げるインスリンの働きの邪魔をするとされている。
【朝日新聞 (2004/06/18) 総合面より】


<元気>禁煙で肌も歯茎も健康に

紫外線の照射実験。たばこの煙の影響を調べる=名古屋市西区の日本メナード化粧品総合研究所で、高山顕治撮影

 男性の43%、女性の10%がたばこを吸っています(02年厚生労働省調べ)。女性は20代〜30代が目立ちます。たばこは美容にも悪いことをご存じでしょうか。肌や歯茎への影響を調べてみました。

 たばこ顔(スモーカーズ・フェース)という言葉がある。顔全体に細かなしわがあって、ほおがこけてたるみ、鼻の脇から口元にかけての線やしわが深いのが特徴。肌荒れや吹き出物、開いた毛穴が目立つ。年齢の割に老けた印象を与える。

 東京女子医科大病院で禁煙外来を担当する阿部真弓講師(呼吸器内科)は「喫煙者かどうかは、顔を見れば9割は見分けがつく。いくらエステに通っても、たばこを吸っていては意味がない」と話す。

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 たばこの悪影響の仕組みをおさらいしてみよう。

 たばこに含まれるニコチンは毛細血管を収縮させ、血のめぐりを悪くする。燃える時にできる一酸化炭素は血液中のヘモグロビンと結びつき、酸素を運ぶのを妨げる。

 たばこの煙は女性ホルモンの分泌を抑え、細胞を傷つけて老化を引き起こす活性酸素を発生させる。活性酸素を抑えるのに使われるのがビタミンC。たばこ1本で約25ミリグラムが使われると言われる。4本で、厚労省が定める栄養所要量1日100ミリグラムを帳消しにする計算だ。

 女性ホルモンやビタミンCは、新陳代謝や肌に弾力を与えているコラーゲンの生成にかかわっている。表皮の角質層が荒れれば、化粧のノリも悪くなる。それで、美容に悪影響が出てくるわけだ。

 しわが深く刻まれる前に禁煙すれば、たばこ顔からの脱皮はできる。ただし、ニコチンで抑えられていた食欲が増すので、体重の増加を心配する人は多い。

 「禁煙すれば、酸素不足が改善され、運動能力は高まる。意識して歩くなどすれば余り心配いりません。不健康にやせた状態が元に戻り、しわも伸びると考えてほしい」

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 口内への影響は、歯や歯茎の変色だ。歯はタールの付着で黄色っぽくなり、歯茎はメラニン色素の沈着で黒ずむ。

 日本大学歯学部の尾崎哲則教授(地域口腔(こうくう)保健学)らは20代の男性120人を対象に歯茎を調べた。黒ずみの有無と喫煙の有無は約8割で一致。喫煙期間が長い人や本数が多い人ほど面積も広い傾向がみられた。

 歯周病の危険性も高まる。歯茎への血のめぐりが悪くなる上、白血球の機能が落ち、歯を支える骨が下がっていく。

 尾崎さんは「喫煙者は歯茎から出血しにくいので、歯周病を自覚しにくい。色が薄い若い人なら、禁煙後半年ほどで改善されます」と話す。

 細菌と肺や気管支に沈着したタールのにおいが混ざり合って、独特の口臭も生む。

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 たばこの煙は周囲の人間にも悪影響を及ぼす。

 日本メナード化粧品総合研究所(名古屋市)は、たばこや排ガスに含まれる有害物質ベンツピレンが肌に付くとどうなるか研究した。

 1平方センチ当たり400ナノグラムを塗っただけでは変化がないが、紫外線(UVA)を当てるとネズミも人も炎症が起きた。さらに、ネズミの皮膚に0・4ナノグラムを塗って夏の1時間分に相当する紫外線を3週間計9回当てると、黒いシミが生じた。この量は、たばこの上20センチの位置で腕をさらし、1本分の煙を当てたのと同じ量だ。

 UVAにより、ベンツピレンが刺激物質に変化、メラニン色素が過剰につくられたとみられる。小島肇夫(はじめ)副主幹研究員は「UVAはガラスを通りやすい。喫煙者と昼間ドライブする時は注意が必要」。

 美容面の他、喫煙や受動喫煙には様々な危険性がある。喫煙についての国内の研究成果をまとめた国立保健医療科学院の望月友美子情報デザイン室長は「肌や口と同じように、変化は目に見えないだけで全身に起こっている。早く禁煙しただけ病気の危険性は低くなる」と呼びかけている。

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たばこのリスク

 厚労省研究班の推計によると、たばこで早死にする人は国内で年間10万5千人。肺がんで死亡する危険性は非喫煙者の2〜4倍、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中は1.7倍。肺気腫、ぜんそくとも関係が指摘される。妊婦では、胎児の発育障害や早産の危険性が高まる。喫煙者と同居する非喫煙者も肺がんなどの危険性が高まることが知られ、受動喫煙対策が課題。

【朝日新聞(2004/02/16) 健康面より】

電動歯ブラシの市場拡大 ライオンも2月に本格参入

店頭に並ぶ電動歯ブラシ
ドラッグストアで通常の歯ブラシと並んで売られるようになった電動歯ブラシ=東京都港区のキムラヤ新橋日比谷口店で

 電動歯ブラシ市場が拡大している。2年前に約800円の低価格商品の登場で消費者への浸透が進み、03年の市場規模は100億円を突破した模様だ。2000円未満の価格帯が中心で、歯ブラシ最大手、ライオンも2月に低価格品で本格参入する。日用品とともにドラッグストアの店頭に並び始めたことも、消費者に受け入れられた要因のようだ。

 ライオンは「クリニカ 電動ハブラシ」を2月下旬に発売する。オープン価格だが2000円程度を想定。同社は1万3000円の商品を出していたが、低価格品でてこ入れをはかることにした。柔らかい毛で歯茎にやさしいのが特徴。

 ジレットジャパンインクも昨年10月に980円の「ブラウン オーラルB クロスアクションパワー」を投入した。毛の向きが一部交差しており磨きにくい部分の汚れを落とすことが特徴だ。サンスターも昨年9月に従来品を値下げして1780円の「G・U・M(ガム)電動ハブラシTZ−25」を投入。ジョンソン・エンド・ジョンソンも2200円の「リーチ パワーブラシ」を発売。歯の着色をとりやすいラバー毛の替えブラシが売りだ。

 電動歯ブラシは以前から家電メーカーなどが販売していたが、1万円以上して高価な商品という印象があった。

 プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インクが乾電池で798円(参考価格)の「クレストスピンブラシ」を02年3月に発売し、1000万本を超えるヒットになった。

 ライオンの調べでは、99年に53億円だった電動歯ブラシ市場は02年に96億円に急成長し03年は120億円になった。市場の8割は、2000円未満の商品が占めている。

 歯をきれいに見せようという意識の高まりや販路が家電売り場からドラッグストアになりつつあり、多くの消費者の目に触れるようになったことも影響しているようだ。

【朝日新聞(2004/01/14) 経済面より】

「虫歯対策は予防が大切」 JFSCPが新HP

 日本フィンランドむし歯予防研究会(JFSCP、東京都荒川区、鈴木章理事長)はこのほど、虫歯予防法などをまとめたサイト「フィンランドから学ぶ大人とこどものむし歯予防」を開設した。

 虫歯の原因は人それぞれ異なるため、成長段階や生活習慣など個別のケースに分け、虫歯予防の先進国フィンランドが実践している「歯磨き」「フッ素」「正しい食生活」「定期検診」「キシリトール」の五つを中心に予防法を紹介する。

 また、都道府県別に、同会会員の歯科医院検索ができ、それぞれの対応できる処置を表示している。

 虫歯は、なってから直す治療ではなく、作らないための予防が重要という。だが、患者の多くは、虫歯になり痛みを感じてから病院に行く。同会は「日本人は、歯磨き以外の予防に対する意識が低い。サイトを通して、予防意識の改革に役立てたい」という。 Mainichi Interactive 2003-12-11

 ★当医院も”日本フィンランドむし歯予防研究会”に所属しています。

[JFSCPの新HP]
http://www.hanoyobou.jp/top.html

ぼけ予防:
歯が減ると脳も萎縮 東北大グループ

 残っている歯が少ない高齢者ほど、記憶をつかさどる大脳の海馬付近の容積が減少していることを、東北大大学院の渡辺誠・歯学研究科長らのグループが突き止めた。アルツハイマー病になると海馬が萎縮(いしゅく)することが知られており、渡辺さんは「ぼけ予防のためには、自分の歯の数を保つことが大切だ」と指摘する。24日東京で開幕したアジア・オセアニア国際老年学会議で26日に発表する。

 研究は、財団法人・ぼけ予防協会が厚生労働省の助成を受けて設置した調査研究検討委員会(委員長、石川達也・東京歯科大学長)のプロジェクトとして実施された。

 東北大グループは、仙台市内の70歳以上の高齢者1167人を対象に調査した。健康な652人は平均14.9本の歯があったが、痴呆の疑いのある55人は同9・4本と少なく、歯の数と痴呆との関連が示唆された。

 さらに、高齢者195人(69〜75歳)の脳をMRI(磁気共鳴画像化装置)で撮影し、残っている歯や、かみあわせの数と、脳組織の容積との関係を調べた。その結果、歯が少ない人ほど、海馬付近の容積が減少していた。意志や思考など高次の脳機能に関連する前頭葉などの容積も減っていた。また、かみあわせ数が少ないと、こうした部分の減少が大きかった。

 渡辺さんは「かむことで脳は刺激されるが、歯がなくなり、歯の周辺の痛みなどの神経が失われると、脳が刺激されなくなる。それが脳の働きに影響を与えるのでは」と話す。【足立旬子】

 海馬 大脳の側頭葉の内側にあり、記憶や学習のメカニズムを担っている。タツノオトシゴのような形をしていることから命名された。入ってきた情報は海馬に一時的に保存され、「長期増強」という定着機能によって簡単に忘れない記憶に変わると考えられている。

[毎日新聞11月25日] ( 2003-11-25-03:00 )

健康状態を示す舌 ドライマウスの専門外来も

 舌には味を感じ、異物を排除する働きがあります。発熱や胃腸の調子で色が変わるため、「舌は身体の鏡」とも言われます。強いストレスで、ピリピリ痛むこともあります。舌と健康について調べました。

 東洋医学では、舌の色、形から全身の健康状態を診断する舌診(ぜっしん)が昔から行われてきた。病院でも舌の状態を診る医師がいる。風邪をひくと「ベーッとベロを出して」と言われた経験を持つ人は多いはず。舌診を研究している国立療養所南福岡病院の柿木保明・歯科医長によると、健康な舌は、表面に舌乳頭(ぜつにゅうとう)という小さな突起が薄く苔(こけ)状に生えており、うっすらと白い。胃腸の働きが悪くなると、苔が厚くなり、白さが増す。風邪のひき始めは、舌の先が赤くなり、発熱の初期症状では、表面がやや黄色くなることもある。

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 風邪気味だった私の舌を診てもらうと、先端が赤く、表面が少し、黄ばんでいるとのこと。数日後に風邪が治ってから鏡で見ると、うっすらとした白色に戻っていた。柿木さんは「舌を診て全身の健康状態が分かれば、体調管理に気を配れる。症状を伝えることができない幼児、障害児、要介護の高齢者にも有効」と話す。

 舌そのものに痛みが走ることもある。40〜60代の女性に多い舌痛(ぜっつう)症は、舌に異常がないのにピリピリと痛いのが特徴。味覚の異常を伴うこともある。東京医科歯科大(口腔<こうくう>心身学)の小野繁教授によると、舌痛症には肩こりや頭痛など他の不調を訴える人が多いという。ところが、楽しみにしていた海外旅行中は痛みが止まったり、重荷になっていた夫との離婚が決まると、痛みがうそのように消えてしまったりする人もいる。
 「全身のバランスの変化が影響しているようです。ストレスが関与している疑いも強い。検査では異常が見つかりにくく、いくつもの病院を渡り歩いてしまう患者さんも多い」と小野さん。治療は、ストレスの原因を取り除くのが基本。専門医のカウンセリングや漢方薬、抗うつ薬、抗不安薬などが効く場合もある。

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 最近、注目を集めているのは、唾液(だえき)(つば)の量が減って、口の中がパサパサと乾くドライマウス(口腔乾燥症)だ。鶴見大学歯学部(横浜市)の斎藤一郎教授は昨年11月、専門外来を開き、ドライマウス研究会を発足させた。
 ものがのみ込みにくくなったり、話がしづらくなったりしたら要注意だ。殺菌作用のある唾液が出なくなると、虫歯や歯周病、カンジダ症などの感染症になりやすく、口臭の原因にもなる。舌がひび割れ、ヒリヒリと痛むこともある。味覚がおかしくなる人もいる。
 原因は様々だ。半分は、降圧剤、利尿剤、抗ヒスタミン剤、抗うつ剤など他の病気で使っている薬の副作用が関係している。斎藤さんは、主治医に症状を伝えて薬の種類を変えたり、減量したりしてもらうよう患者に助言する。
 リウマチや糖尿病、腎臓病、肝臓病、自己免疫の異常で唾液とともに涙も出にくくなるシェーグレン症候群などの病気で起こることもある。 強いストレスもいけない。緊張すると口が乾いた状態になることを思い浮かべれば分かりやすい。

 検査では、ガムをかみながら出てくる唾液を量る。10分で10CC以上出れば正常だ。唾液は唾液腺というポンプから出る。唾液腺を押すには、よくかんで、口の周りの筋肉を維持する必要がある。ファストフードなど軟らかいものばかり食べると、口の周りの筋肉もあごの骨も発達しないため、唾液を押し出す力が弱くなる。

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 専門外来の受診者はこれまでに500人。斎藤さんは「食生活の変化からドライマウスが低年齢化していることも気になる。ペットボトルをいつも手放せない若者の中にも相当数いる可能性がある」として、潜在的な患者は100万人単位でいると見る。口の中が乾くと、気になって物事に集中しにくい。改善するには、専用の保湿ジェルや人工唾液、うがい薬が有効だ。斎藤さんは「これまでは『よく水を飲んで』で片づけられてきたが、患者さんの苦痛は相当なもの。原因を取り除けないか試みた上で、対症療法により生活の質を向上させましょう」と話している。

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 日常生活での注意

 ドライマウスの人は、歯磨きやうがいで口の中を清潔に。食事でかむ回数を増やすと唾液が出やすくなる。ガムをかむのもいい。

 保湿ジェル

 チューブから絞って口の中で広げて使う「オーラルバランス」(本体1900円)は、ひと絞りで5〜8時間もつ。スプレー式の「ウエットケア」には唾液に含まれるヒアルロン酸が入っている。6本入り2340円。専門医のいる歯科医院や調剤薬局で売っている。

 (2003/10/27) 朝日新聞

虫歯改善にフッ素有効 ライオンと大阪歯科大発表

2003年9月25日

 ライオンと大阪歯科大は24日、フッ素入り歯磨きが虫歯の進行を防ぐ効果が確かめられたとの研究成果を発表した。フッ素は虫歯に効くとされているが、歯磨きで集団で長期のデータで裏付けられたのは初めてという。26、27日の日本口腔(こうくう)衛生学会で報告する。

 虫歯の初期状態にある64人にフッ素入り歯磨きを1日2回、1年間使ってもらい、87.5%にあたる56人に改善効果が見られた。虫歯は歯の中のカルシウムが溶けて結晶が崩れる状態をいうが、溶けたカルシウムがフッ素で再び結晶化した。

 フッ素は自然界にある元素で、海藻などにも含まれており、同社によると、日本の歯磨き製品の8割強にフッ素が入っている。厚生労働省の通知でフッ素の濃度には上限があるが、同社は「フッ素が歯に浸透しやすい商品を開発していきたい」としている。

(09/24 20:55) [朝日新聞]

 江崎グリコの生物化学研究所(大阪市)は、ジャガイモ由来のでんぷんから虫歯予防効果のある物質を開発した。初期う蝕(しょく)と呼ぶ穴の開く前の虫歯の再石灰化を促すことで、進行を抑制する。同社はこの成分をガムに配合する一方、健康食品分野での用途開拓を目指す。

 この物質はリン酸化オリゴ糖カルシウム「POs―Ca(ポスカ)」。加水分解したジャガイモのでんぷんから調整した新しいリン酸化オリゴ糖を元に開発した。この成分を含んでもだ液は酸性にならず、歯のカルシウム分が溶けだすことはない。虫歯の原因となる細菌の栄養源にもならないことが確認できた。

[日経産業新聞]

歯科医 健康にも一役 
禁煙支援や寝たきり予防・・・


2003年5月22日

 歯の治療だけでなく、患者の健康や生活の向上にも役立とうという考え方が、歯科医の間に広がっています。歯周病などで通院する中高年に禁煙を働きかけたり、食べる楽しみを取り戻すことで高齢者の「生活の質」を改善したり。児童虐待の防止を目指す取り組みも始まりました。歯科医らの新しい取り組みを報告します。

 ●たばこ断ち歯ぐき回復

 「まだ40代なのに歯が抜けていくのが、たまらなく寂しくてね」

 建築関係の会社を経営する東京都練馬区の大内浩幸さん(46)は歯周病の通院がきっかけで禁煙に成功した。約四半世紀続けたたばこを、この半年は全く吸わずにいる。

 3年ほど前に歯ぐきの緩みを自覚し、歯科医院に通うようになった。昨秋、歯を4本抜いた。歯科医は以前から「たばこをやめれば症状の悪化は防げます」と勧めていた。最初は気が進まなかったが、「歯を失うよりは」と勧めに乗ってみた。

 3カ月後の検診時、禁煙を知った歯科医が一緒に喜んでくれたのが忘れられない。「時々少し吸いたくなりますが、歯のために我慢できると思います」と話す。

 喫煙は唾(だ)液の分泌を抑制するため、自浄作用が落ちて口の中が不潔になりやすい。タールの汚れで歯石が付きやすくなる。ニコチンが歯ぐきの血管を収縮させ、歯周病への抵抗力を弱めることも近年分かってきた。

 東京都歯科医師会は、歯周病患者に禁煙を広げようと、今年1月から「禁煙支援プログラム」を始めた。初診時に喫煙の本数や期間を聞き取り、ニコチンの依存度を測定。たばこによる歯の着色を落として清潔な状態の快適さを実体験してもらい、禁煙を勧める。食生活や運動などについても歯科医が相談に乗る。

 歯科医らに禁煙の働きかけ方の研修を受けてもらい、今春から都内約100カ所の歯科診療所が患者の支援に取り組んでいる。比較的長い通院が必要な歯科の特性を活用し、まず1年間の禁煙達成を目標にしている。

 ●かむ力維持しリハビリ

 体が不自由な高齢者のリハビリに歯科医らが加わり、「生活の質」の向上をはかる取り組みが始まっている。

 藤田保健衛生大学の七栗サナトリウムリハビリテーションセンター(三重県久居市、214床)では、3年前から院内に歯科医や歯科衛生士が常駐し、脳梗塞(こうそく)などの後遺症を抱えた高齢者のケアに参加している。疾患や運動能力の検査に加えて、歯科医らが患者の口の中の状態を随時チェックし、衛生状態や食べる能力が低下することを防ぐ。

 きっかけは、同大学の才藤栄一教授らが、体の不自由な高齢者ら計70人に協力を依頼し、歯科治療の前後で運動能力や生活の快適度などの変化を調べた研究だった。本来の障害とは直接関係ない歯の治療で、患者の表情をもとに指標化した「生活全体の快適度」が大幅に向上した。かむ力を取り戻すことで、意識レベルや身体の移動、表情を作る能力なども改善されていた。

 調査前の対象者の歯は放置が目立ち、7割にあたる49人で入れ歯の作り直しが必要だったという。また、入院中の高齢の障害者151人を調べたところ、139人(92%)に歯の治療が必要なのに、実際に治療を受けていたのは3人だけだった。歯の状態の悪化が、生活の質や能力の低下を招いている実態が浮かんだ。

 才藤教授は「口内の衛生状態の悪化のため、食欲が落ちて寝たきりになったり、口臭を気にして閉じこもったりする事例も多い。高齢者の『食べる能力』を積極的に維持するため、歯科医と医療機関はもっと連携すべきです」と指摘する。

 ●歯を折って来院、虐待の発見も 「治療だけでは済まぬ」

 愛知県歯科医師会は今年4月、独自の「児童虐待対応マニュアル」を作り、会員の歯科医師ら約3500人と行政機関に配布した。児童虐待を早期に発見するため、歯科医師も積極的に役割を果たすことをうたっている。

 マニュアルは、特定の児童が2度以上歯を折って来院したり、歯の損傷以外に不自然な外傷があったりした場合、まず状態を撮影するなど、克明な記録をとることを求めている。記録をもとに歯科医師会の担当者らが対応を検討し、虐待の可能性が高いと判断した場合は、児童相談所などに通告する。同会は「まだ仕組みを作ったばかりだが、今後の経験をもとに改善を重ねたい」としている。

 千葉県歯科医師会も、児童虐待や配偶者からの暴力の被害者とみられる児童や女性が来院した場合の対応マニュアル作りを進めている。

 児童虐待のうち近年激増しているのは、保護者の養育放棄とされる。東京都は、昨年夏から今年にかけて都内の児童相談所や乳児院に保護された児童170人を対象に、虫歯と児童虐待の関係を全国で初めて調査した。6歳未満では虫歯が平均2.99本で一般の3倍以上、未治療は同2.69本で6倍以上。口の中の健康管理も放置されていた。

 「虫歯の多い原因が虐待に直結するわけではないが、早期発見の材料になり得る」として、都歯科医師会は児童虐待の防止にどう関与すべきか、検討を進めている。同会の森岡俊介理事は「虫歯の治療だけしていればいいという時代ではない。歯科医も社会問題にかかわっていくべきです」としている。


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[虐待児童] 放置の虫歯、平均の8倍にも 
東京都が初の調査

2003 年 4月 30日


 虐待を受けた児童の歯を東京都が調べた結果、放置されている虫歯の本数が通常健診の児童平均より多いことがわかった。1人あたりの治療未処置本数は、乳歯では児童平均の6倍、永久歯では8倍を超えていた。米国では、虫歯と児童虐待の関係が深いといわれてきたが、国内での実態調査は初めて。

 昨年夏から、児童相談所や乳児院に保護された児童(1〜12歳)170人の虫歯の有無や治療状況を調べ、東京都がすでに調査していた同年代の平均と比較した。

 乳歯を持つ6歳未満の子供のうち、虫歯(治療済みも含む)がある子供の割合は、従来の調査では20.93%だが、虐待を受けた子供は2倍以上にあたる47.6%にのぼった。1人あたりの未処置本数は児童平均が0.44本なのに対し、6倍を超す2.7本だった。

 永久歯でも傾向は同じで、11歳の虐待児の場合、未処置本数は3.67本で児童平均0.41本の約9倍、12歳では5.22本で同0.62本の8倍を超えた。

 東京都は「虐待防止のネットワークに歯科医に入ってもらったり、定期検査や学校の健診で異常を発見する手がかりにするなど、結果を生かしたい」と話している。【小平百恵】

[毎日新聞4月30日] ( 2003-04-30-20:53 )

子供の虫歯と間接喫煙に深い関係=
免疫力と唾液の働きを阻害か
――米大学が調査

2003 年 3月 13日

【シカゴ12日】子供が虫歯になるのは甘いもののせいではなく間接喫煙が原因である可能性が強まったと米ロチェスター大学の研究者たちが発表した。虫歯の子供が低所得家庭に比較的多い 理由を調べた研究者たちが、乳歯の虫歯と身の周りのたばこの煙の間に強い関係がある事実を発見し、12日発行の米国医学会報(JAMA)に論文を寄せている。

これによれば、1988−94年に4歳から12歳までの児童3500人を調べたところ、3分の1が少なくとも1本の歯に詰め物をしており、4分の1は治療していない虫歯が少なくとも1本あった。また、53%がニコチンの副産物であるコチニンの血中レベルが高かった。コチニンのレベルの高さと子供の虫歯の間には強い相関関係があるという。

この結果から研究者たちは、間接喫煙は有害であり、すべての子供がたばこの煙のない環境で育てられるべきだと主張している。間接喫煙と永久歯の虫歯の間には同様の関連性は見られなかったという。

研究者たちは、間接喫煙が乳歯の虫歯の原因になるのは、たばこの煙を吸うことにより子供の免疫力が弱められたり、口が渇いて唾液の有用な働きが阻害されるためではないかと考えている。〔AFP=時事

[カネボウ] たばこのヤニ落とせる
          歯のクリーニング用具発売へ

2003 年 2月 18日


 カネボウは3月1日、歯に付着したコーヒーの着色汚れや、たばこのヤニを自宅で手軽に落とせる歯のクリーニング用具「カネボウ ヘルプワン デンタショット」を全国のコンビニエンスストア約3万店で一斉に発売する。歯の美白ブームに乗じた新商品で、独自開発の専用クリーニング剤とブラシをセットにした。専用剤は歯科医向けに販売しているクリーニング剤と同じ成分を配合し、天然物由来の光沢剤を加えた。1回使い切りタイプで480円。

[毎日新聞2月18日] ( 2003-02-18-23:47 )

[歯の美白] メーカーから新商品続々 
          96年「アパガード」以来
  2003 年 2月 6日

 歯の美白ブームが再来し、花王など家庭用品メーカーが「白い歯」を強調した新商品を今春、続々発売する。ブームはお茶人気などで歯の着色汚れの原因が増えていることが背景で、「芸能人は歯が命」のCMで知られるサンギの「アパガードМ」が大ヒットした96年以来という。各社の開発競争が過熱しそうだ。

 花王は3月15日、有機酸の一種のリンゴ酸を使った「クリアクリーンプラスホワイトニング」を発売する。歯の黄ばみの原因の多くは、お茶などに含まれる着色物質がカルシウムや鉄などの金属イオンと結び付き、歯の表面に沈着すること。花王はリンゴ酸が着色物質と金属イオンの結び付きを緩め、黄ばみを浮き上がらせる働きをもつことを発見、商品開発に成功した。美白をうたった花王の歯磨きは初めて。

 一方、歯磨き首位のライオンは4月、「ホワイト&ホワイト プライムライオン」を改良新発売する。金属イオンと結び付きやすい物質「ゼオライト」を配合、金属イオンを取り除いて、着色物質の沈着を防ぐという。

 また、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、着色汚れを落とす機能をもった新電動歯ブラシを3月にも発売する予定だ。 【宇田川恵】

[毎日新聞2月6日] ( 2003-02-06-19:06 )

「これなしでは生活できない発明品」
            トップに歯ブラシが!

2003.01.23

  - CNN

  (CNN) マサチューセッツ工科大学の研究チームが、米国の人を対象に「これなしでは生活できない発明品は何か」という電話アンケートを取ったら、歯ブラシが文句なしの1位になった。2位以下は車、パソコン、携帯電話、電子レンジだった。

  今回の調査は、成人1000人と10代400人を対象に、研究者が予め選んだ歯ブラシなど5品目のうち「これなしでは生活できないのはどれか」を電話で尋ねたもの。このほかの設問では、成人の60%、10代の56%が「生きている間にがんの治療法が見つかるだろう」と答えている。

  全米歯科協会のリチャード・プライスさんは「当然の結果だ。歯は毎日使うもの。車やパソコンなら取り替えがきくが、歯はそうはいかない」と話す。

  研究チームは、歯ブラシが1位に選ばれたことについて強い関心を持っている。一般の人は「偉大な発明は複雑なものであってはならない」と、考えているからだそうだ。

  歯ブラシの発明は意外と古く、全米歯科協会によると、1498年に中国の皇帝がブタの剛毛を骨に植えて作ったことがわかっている。このタイプの歯ブラシは人気を呼んだが高価だった。経済的に余裕のない家では歯ブラシを家族で共有していたという。

  1938年になり、有名な化学会社デュポンがナイロン歯ブラシを開発し、米国で歯ブラシの使用は一般化した。

  チームはこれまで、発明をテーマにしたさまざまな調査を行っている。1995年の調査では、約半数の回答者が「発明家は変人だ」と答え、98年の調査では56%の回答者が「医学の進歩の中で最も大切なのは、抗生物質の発明だった」と答えている。

  また99年の調査では「最も重要な発明家はだれか」という問い、凧揚げによる静電気実験で有名なベンジャミン・フランクリンが、マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長や、電話を発明したグラハム・ベルを押さえている。